1 はじめに
経営者の立場として,従業員の雇用と生活を守っていきたいと願っていても,景気の変動,社会情勢の変化等によって,どうしても雇用を守れなくなることもあろうかと思います。
そのような場合,余剰人員のリストラ(整理解雇)も視野に入れざるを得なくなりますが,整理解雇を行う場合には,違法な解雇と判断される危険がないかどうか注意しなければなりません。
後々,裁判所により,整理解雇が無効と判断されてしまいますと,整理解雇の時に遡って賃金を支払うことになってしまいますので,整理解雇に踏み切る際には,解雇の適法性について,慎重かつ十分な検討をする必要があります。
2 整理解雇の4要素
判例法理上,整理解雇が適法と判断されるには,以下の4要素が必要と考えられています。
すなわち,①人員削減の必要性,②解雇回避措置の実施,③人員選定の合理性,④解雇手続きの合理性の4要素が必要とされることが通常です。
まず,①人員削減の必要性とは,人員削減についての経営上の必要性のことです。
どの程度の事情があれば,人員削減の必要性があるかについては,企業が「倒産必至」の状態にあることまでを要するという考え方もありますが,一般的には,経営上の困難から人員削減措置が要請されるという程度で足りると考えるべきでしょう。
次に,②解雇回避措置の実施です。整理解雇によって,従業員が受ける不利益は大きいものがありますので,整理解雇に踏み切る前に,整理解雇以外の方法で人員を削減するように努めなければならないというものです。
一般的には,希望退職者の募集,退職勧奨,賃金等の引き下げ,配置転換,出向等により,解雇を回避することが考えられます。
また,③人員選定の合理性とは,整理解雇対象者の選定は,合理的な基準に従ってなされなければならないというものです。例えば,欠勤日数,遅刻回数,規律違反歴等の勤務成績や勤続年数等の企業への貢献度を基準とすることがあります。
最後に,④解雇手続きの合理性です。使用者は,従業員や従業員が加入している労働組合に対して,整理解雇の必要性とその時期,規模,方法につき納得を得るために説明を行い,誠意をもって協議しなければならないとされていますので,注意が必要です。
3 整理解雇に踏み切るにあたっての留意点
(1)人員削減の必要性があるかどうかを検討する
整理解雇によって余剰人員を削減するにあたっては,まず,人員削減の必要性の有無が問題となります。
本当に余剰人員を削減しなければならない経営上の必要性があるのかどうかについては,できる限り客観的な数字によって,具体的に検討する必要があると思われます。
売上高や経費,利益の額,利益率,人件費の額,人件費率等の数字を参照し分析したうえ,業界や市場の動向も考慮し,今後の業績の見通しも見極めて慎重に判断しなければなりません。
また,この記事を書いている令和3年9月現在,新型コロナウィルス感染拡大の影響により,企業と労働者を支援するために,雇用調整助成金等の各種公的支援制度の利用が勧められています。
そのため,人員削減の必要性を判断するにあたっては,雇用調整助成金等の支援制度の活用を検討し,それでもなお人員削減の必要性がある場合でないと,整理解雇は認められないと思われます。
(2)解雇回避措置を実施する
次に,余剰人員削減の必要性があると判断した場合でも,すぐに整理解雇に踏み切るべきではありません。
まずは,退職金の加算等,労働者にとってのインセンティブを提示し,希望退職者を募るべきです。
また,企業の規模,従業員の雇用条件によってはできないこともありますが,配置転換や出向により,整理解雇を避けることができないかどうかも検討する必要があります。
(3)合理的な人員選定を行う
整理解雇の対象者の選定にあたっては,恣意的な要素を排除し,できるかぎり客観的な基準を用いる必要があります。
欠勤日数,遅刻回数,規律命令違反回数等は客観的なものだと言えますが,「能力評価」については,必ずしも客観的なものだとも言い切れないため,人選の基準として信頼するに足りるものかどうかを検討したうえで用いる必要があると思います。
普段から能力評価ないし人事考査自体を行っていないという企業もあると思いますが,余剰人員の削減もやむを得ないとなったときに,誰を選定するかについての基準ともなりますので,普段からできる限り客観的な指標に基づいて人事考査を行うことが望ましいと言えます。
また,整理解雇対象者の選定にあたって,職務怠慢な従業員や勤務態度が芳しくない従業員が対象となることは,やむを得ないところがあると思いますが,整理解雇の名を借りて,恣意的に問題社員を辞めさせるということはあってはならないでしょう。
(4)従業員に丁寧に説明して納得を得る
最後に,解雇手続きの合理性の観点からは,これまで述べて来た人員削減の必要性,解雇回避措置の実施,整理解雇対象者の選定についての使用者の検討結果等を,できる限り丁寧に従業員に説明し,従業員の納得を得ることが重要だと言えます。
もちろん,企業の秘密や機微情報等,従業員に対して伝えてはならないこともありますが,どうして整理解雇を行うのか,整理解雇以外の方法はないのか,なぜ他の従業員ではなくその従業員が整理解雇の対象に選ばれたのかについて,具体的な根拠や客観的な数字も示しつつ説明し,できる限り理解し納得してもらう必要があると思います。
4 最後に
整理解雇の実施については,高度な経営判断が要求されると同時に,後々裁判手続等で争われる可能性がありますから,法的な判断も要求されます。
また,従業員にとって不利益を生じさせることですから,本当に整理解雇以外の方法がなく,やむを得ないものかどうかについて,慎重な検討が必要です。
整理解雇実施後に,解雇無効を争われた場合に弁護士に依頼することもあろうかと思いますが,できればそうなる前に,転ばぬ先の杖として,早めに弁護士への相談をご検討ください。