従業員に対する損害賠償請求はどの程度認められる?金沢の弁護士が詳しく解説

1 はじめに

従業員が,仕事中の不注意で会社に損害を与える場合があります。

例えば,従業員が社用車を運転し営業に向かっている途中で,運転ミスでガードレールに社用車をぶつけてしまい,社用車を破損させるなどといったことが起こりえます。

このように,従業員が仕事中の不注意で会社に損害を与えた場合,無条件に損害賠償請求ができるのでしょうか。
会社の従業員に対する損害賠償請求はどの程度認められるのかについて,解説します。

2 一般的に損害の全ての賠償を求めることはできない

判例を見ると,従業員が不注意で会社に損害を与えた場合でも,無条件に損害の全ての賠償を求めることはできず,一定の限度に制限されるのが一般的です。

従業員に対する損害賠償請求が制限されるのは,会社と従業員とでは経済力に大きな差があるのが通常で,従業員が会社に損害を発生させた場合に損害の全てを従業員に負担させるのは従業員にとって酷であり,会社も従業員の労働によって経済的利益を得ていることから,従業員が会社に損害を生じさせた場合に会社も一定程度損害を負担するのが妥当と考えられるからです。

会社の従業員に対する損害賠償請求がどの程度制限されるのかは,①会社の事業内容や規模,②従業員の業務内容,労働条件,勤務態度,③従業員の行った行為(会社に損害を与えた行為)の内容,④損害の発生や拡大について会社がどの程度配慮していたか(従業員への指示・指導の有無や内容,保険に加入していたかどうかなど),といったことを考慮して,判断されます。

以下では,実際に裁判で問題となった事例を通して,会社の従業員に対する損害賠償請求がどの程度認められるのか,どのような事情を考慮して賠償の範囲が判断されるのかを見ていきます。

3 会社の従業員に対する損害賠償請求の限度が争われた実例

① トラックのドア締め忘れによって損害を生じさせた例

運送会社(トラック運転手が約60名,その他の従業員も約60名在籍)に勤務していた従業員(トラック運転手)が,会社所有の普通貨物自動車を貨物集配のために運転中,後部ドアのフック装置(ドア開閉止め装置)をセットせずに運転していたため,後部ドアが開いてしまい,電柱にぶつけてドアが破損し,3万円の修理費が掛かったという事例です。

この従業員は過去にも後部ドアのフックの締め忘れによって走行中に積んでいた貨物を落下させるなどしており,会社から必ず運転開始前にフック装置をセットするよう厳しく指導を受けていました。

そして,この従業員の業務(二トン車業務)は他の従業員と比較して特に苛酷であったとは言えないことや,この従業員が本件事故により無事故手当を6か月間(合計1万5000円)カットされていることなどから,損害の3分の1のみ,従業員に対する損害賠償請求が認められました。

② 機械の作動中に居眠りをして損害を生じさせた例

工作機械などの製造販売会社の従業員が,夜勤中,プレーナー(平削盤)を操作していたところ,約7分間,居眠りをしてしまい,その間にプレーナー機械が破損するなどして,会社に数千万円の損害が生じた事案です。

この従業員は勤務中に居眠りをしており,不注意の程度自体は大きい一方,深夜勤務中のことであり,居眠りをしたことに同情すべき点もあるとされました。

また,会社は機械保険に加入するなどの損害軽減措置を取っておらず,この件以外に従業員の不注意で機械を破損させた場合に損害賠償請求をしたこともありませんでした。

これらの事情から,損害の4分の1に限って賠償請求が認められました。

③ 宝石販売の営業員が商品を盗まれたことで損害が生じた例

貴金属宝石類の卸売り業を営む会社の従業員(営業担当)が,顧客との商談中,商品(貴金属宝石類)を入れた鞄から目を離し,鞄から数メートル離れた所で商談をしていたところ,何者かに鞄を盗まれ,会社に数千万円の損害が発生した事案です。

商談先の店舗は,駅ビルの一角にある店舗で,壁で区切られておらず,ショーケースやショーウインドーなどで仕切られているのみでした。

そして,この従業員は,鞄を外部の者の手の届く場所に置いたまま,鞄から目を離していました。このような従業員の不注意は重大なものだとされました。

一方で,会社は従業員が持ち歩く貴金属宝石類について盗難保険に入っていなかったことや,第三者の窃盗という犯罪行為によって引き起こされた被害であること,従業員の日頃の勤務態度に問題がなかったことなどもあり,このようなことが総合的に考慮されて,損害の半分のみ,従業員に対する損害賠償請求が認められました。

4 まとめ

従業員が仕事上の不注意で会社に損害を与えた場合に,会社が従業員に対して損害賠償請求ができるのか,解説してきました。

従業員も人間である以上,ミスを完全に無くすることはできず,従業員の不注意で会社に損害を与えることを無くすことはできません。

また,上記で解説してきた裁判実務を前提とすれば,従業員が仕事上の不注意で会社に損害を与えた場合,会社が従業員に対して賠償を求められる損害の範囲は,一定の限度に制限されるのも,やむを得ないところです。

会社としては,万一の場合に備えて,事前に取りうる対策を講じておくことが大切です。

例えば,従業員がミスをした場合に,それ以降ミスが起きないように指導をしっかりとする,ミスが起きにくい仕組みを考えて導入する,損害が保険で賄われるように保険に加入しておく,などといったことが考えられます。

どのような対策をするのが有効なのかは,裁判実務に精通した弁護士でなければ分からない部分もありますので,弁護士へのご相談をお勧めします。

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