会社の指示に従わない社員を解雇するには?金沢の弁護士が詳しく解説

企業は社員に対してさまざまな業務上の指示や命令を出して運営されています。

このような指示・命令に違反されると業務が滞ってしまいますが,残念ながら反発して命令を聞かない社員もみられます。

そこで今回は,このような業務命令違反をする社員に対しての処分について解説します。

1 さまざまな業務命令

企業は従業員に対し,労務を提供させるために,さまざまな業務命令を出すことができます。

この業務命令権は,従業員が会社に労働を提供するという契約があるためにできることなので,命令することができる範囲も,労働契約の範囲内でなければなりません。

たとえば上司が部下に対して「お菓子を買ってきてほしい」という命令を出したとします。

会社に来る大事なお客様の接待のためのお菓子であれば,一般には業務の範囲内として許されると考えられます。

しかし,お菓子を上司のおやつに欲しいということであれば,極めて個人的なものですから,業務の範囲外であり命令は無効だということになります。

私的なことは論外ですが,業務の必要性から,企業は広範な業務命令を出すことができます。

従業員の担当する業務については当然ながら,それ以外でも,転勤命令や出張,研修,残業,自宅待機,健康診断などについても,命令を下すことができるとされています。

そのため,社員が会社からの業務命令に従わない場合は,懲戒処分の対象となり得ます。

2 業務命令違反への懲戒処分

社員が業務命令に違反した場合に,その社員に対し懲戒処分ができるかは,主に以下のような点について考慮されます。

   ①業務命令が有効か無効か

   ②業務命令違反が懲戒事由にあたるかどうか

   ③懲戒処分が妥当なものか,濫用にあたるか

①は業務命令それ自体の有効性です。

この点は問題ないと考えられるケースも多いのですが,たとえば配置換えや転勤命令について無効だとされたケース(東京高裁平成20年3月27日判決,大阪高裁平成21年1月15日判決など)や,懲罰のための不合理な命令が無効とされたケース(最高裁平成8年2月23日判決,大阪高裁平成21年5月28日判決など)もありますので,注意が必要です。

②の懲戒事由にあたるかどうかは,そもそも就業規則に懲戒事由として記載されていなければ,懲戒できないことも多いでしょう。

また,就業規則に懲戒事由として定められている場合であっても,違反の程度がごく軽いケースや,故意に違反したのではないケース,命令に従わなかったことに正当な理由が認められるケースなどでは,実際に企業秩序が乱されたとはいえないとして,懲戒事由に該当しないと判断されることもありえます。

③は懲戒処分の妥当性で,命令違反の程度と懲戒処分の重さのバランスがとれているか,ということです。

さほど重大な命令違反ではないのに,解雇などの重い処分がされているケースでは,処分が無効とされることがあります(東京地裁平成24年11月30日判決など)ので,適切に調査した上で慎重に考慮しなければなりません。

3 業務命令違反による懲戒の事例

それでは,業務命令に違反したことを理由に懲戒処分などがされた,実際の事案をいくつかご紹介します。

まず,処分が有効とされた事例です。

最高裁平成3年11月28日判決の事案は,工場で従業員が手抜き作業をしたため,残業して手直しをするよう命じたものの,従業員は残業を拒否したため,14日間の出勤停止の懲戒処分を行いました。

その後,従業員は残業命令に従わないという考えを変えず,3回同様のことを繰り返して,そのたび懲戒処分を受けたため,会社はこの従業員を懲戒解雇したというケースです。

従業員側は無効だとして争いましたが,裁判所は,従業員の行為は懲戒解雇事由にあたり,濫用でもないとして有効だと判断しました。

東京地裁平成11年11月15日判決の事案は,化学工業関係の会社で,従業員が他の社員を個人攻撃していたため,会社から出勤停止処分を受けたにもかかわらず,これを無効であると主張して出勤し続けた上,上司の業務指示に従わなかったり,上司の作成した文書が偽造だとする文書を発信したりしたことから,諭旨解雇としたケースです。

従業員側は無効だとして争いましたが,裁判所は,従業員の行為は就業規則上の解雇事由に該当し,濫用でもないとして有効と判断しました。

東京高裁平成17年11月30日判決の事案は,金融関係の会社で金融商品の販売を担当する従業員が,会社の事業活動を妨害するような手紙を公認会計士協会に送付したり,訴訟を提起したりしたため,会社が従業員に対し妨害行為や訴訟を取りやめるように命令したものの,従業員がこれを無視したため懲戒解雇したケースです。

従業員側は無効だとして争いましたが,裁判所は,違反の重大性に対し処分は妥当であり有効と判断されています。

これに対し,処分が無効とされた事例が以下です。

東京地裁平成24年11月30日判決の事案は,社内のネットワークシステムの操作などの業務に従事していた従業員が,管理者権限の抹消をするよう命令されたものの,これを拒否して業務を継続したため,会社が従業員を懲戒解雇したケースです。

裁判所は,従業員の行為は業務命令違反ではあるが,会社のシステムに実害が生じていたとは認められないため,処分は権利濫用であるため無効だと判断しました。

福岡地裁小倉支部平成9年12月5日判決の事案は,従業員が髪の毛を黄色く染めたため,会社はこれを黒に染めるよう命じたところ,従業員が黒の白髪染めを使って少々茶色が残る程度まで染めたものの,会社がさらに始末書の提出を求めたところ従業員がこれをしなかったため,会社が始末書不提出を理由に諭旨解雇したケースです。

裁判所は,髪の色は人格的自由に関する事柄であり特段の配慮が要請される一方で,従業員が命令に応じて染めていることや,始末書不提出をもってさらに懲戒することはできないとして,処分は権利濫用であり無効だと判断しました。

4 処分の注意点

上記のように,業務命令が有効かつ合理的なものである場合は、当該業務命令に違反した社員は懲戒処分の対象となり得ますが,懲戒解雇など重い処分が認められるケースは,裁判例上はかなり限定的な場合に限られることがわかります。

業務命令をしたことが文書などの記録に残っていない,会社側が命令の理由や合理性について十分な説明をしていない(あるいは説明した記録が残っていない)場合には,そもそも有効な業務命令だったと判断できないとされる可能性があります。

そうなると,命令違反も懲戒事由にならないことになりますから,このような証拠資料を作成して適切に残しておくことに注意すべきです。

また,命令違反があったこと自体は問題なく認められたとしても,従業員側にかなりひどい非違行為がない限り,一足飛びに解雇することにはかなり厳しいハードルがあります。

これに対し,1つ1つはさほど重大ではない命令違反であっても,過去に何回も改善指導また懲戒処分がなされたにもかかわらず,改まらず命令違反があった場合には,もはや改善しないとして解雇はやむをえず,これが有効とされるケースが散見されます。

社員が業務命令に従わない場合には,まずその社員に対して,命令に従わない理由を確認し,命令違反に正当な理由が認められない場合は,命令に応じる義務があることを説明し,説得すべきです。

説得にも応じないのであれば,最初はけん責や厳重注意などの軽めの懲戒処分をした上で,改めて業務命令を発しましょう。

改めて出した命令にも応じず,改善がみられないのであれば,説得また指導をしつつ,より重い処分を検討することになりますが,それでも,どうしても改善しないのであれば,最後には解雇もやむをえないと考えられます。

このように,一口に命令違反といっても,その内容や程度は千差万別です。命令違反を理由に処分する場合,適切な経過や記録に基づいて妥当な処分を下さなければ,あとで無効と判断されてしまうリスクもあります。

より企業が発展していくためには,起きてしまった紛争を解決するだけではなく、紛争を予防し,会社のリスクを最小限に抑えることが必要だと感じています。

弊所では,労働分野にくわしい弁護士がサポートをしておりますので,社員とのトラブルに悩まれたら,気軽にご相談いただければと思います。

業種別のお問い合わせについて

  • 情報通信業
  • 医療・介護事業
  • 運送業
  • 建設業
  • 飲食業
  • その他
076-232-0130 ご相談の流れ ご相談の流れ
  • 顧問契約をご検討の方へ
  • お問い合わせ
  • アクセス