どうすれば懲戒処分ができるか?懲戒処分の限界と処分内容を解説

会社で仕事をする人には,いろいろな人がいます。全員が何の問題もなければいいのですが,残念ながら,中には問題を起こす人もいます。

そんな人に対しては,懲戒処分を下すこともあるでしょう。今回はそんな懲戒処分について解説します。

1 懲戒処分には根拠が必要

複数の人が集まって,協力して仕事をしていく以上,どうしても組織の秩序を守ることが必要となりますから,企業が服務規程などのルールを定めることは,とくに何の根拠もなく,当然できると考えられています。

懲戒処分も,とくに定めがなくてもできてよさそうですが,裁判例をみてみますと,就業規則や労働協約,個別の労働条件などで定められていない懲戒処分がされた場合に,無効だとする判断がいくつもみられます。

そのため,就業規則等に懲戒処分について定めておく必要があります。

この場合,どんな場合に懲戒がされるのか(懲戒事由)と,どんな懲戒処分がされるのか(懲戒の種別)を定めておかなければなりません。また,その規定が周知され,内容も合理的である必要があるとされています(労働契約法7条参照)。

懲戒処分の法的な根拠があったとしても,問題の従業員の行動が懲戒事由にあたるかどうかは,形式的に判断することはできません。懲戒処分は企業の秩序を守るためにされるので,問題の行動に実質的に企業秩序を乱す危険があってはじめて,懲戒処分が有効にできるのです。

 

2 やりすぎ注意!濫用で無効になることも

懲戒処分の法的根拠がちゃんと準備されており,問題行動が懲戒事由に該当するとして,それでも懲戒処分が無効とされてしまうことがあります。

法律では「使用者が労働者を懲戒することができる場合において,当該懲戒が,当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,当該懲戒は,無効とする」とされています(労働契約法15条)。

ちょっとわかりにくいですが,懲戒事由とされる問題行動の内容や問題行動の状況・悪質性だけでなく,その他の事情も考慮した上で,懲戒処分に合理的な理由があると認められ,かつ,処分の内容が一般に相当であると認められる場合でなければ,懲戒処分は企業の懲戒権の濫用となり有効とは認められません。

その他の事情は,問題行動にまつわるさまざまな事情が含まれます。

たとえば,問題行動の結果どんな影響があったか,問題社員の過去の非違行為歴や反省の態度の有無,他の懲戒処分とのバランス,問題行動から処分までの期間などが考慮される例として多くあります。

過去の裁判例をみると,修学旅行引率中に少量の飲酒をしたのに対し停職処分をした場合や,問題行動から数年後に問題視して諭旨退職処分とした場合などで,懲戒処分が濫用だとされています。

問題行動の内容や悪質性に対して,懲戒処分の重さはバランスがとれているか(処分が重すぎないか)が,懲戒処分に関する争いの主なポイントとなるわけです。

 

3 懲戒制度をつくるとき・処分を下すときの注意点

懲戒処分は,問題行動をした従業員への制裁であることから,さまざまな制限を受けるとされています。主なものは以下です。

(1)懲戒事由と処分内容の明示

法的根拠のところでも解説しましたが,懲戒するには,就業規則などで懲戒事由と懲戒の種別を明示しておく必要があります。

この懲戒について明示することということは,逆にいえば,規定から外れたことをしてはならないということでもあります(類推解釈の禁止)。

たとえば,就業規則上は職歴の詐称を懲戒事由と定めていた場合に,年齢の詐称を理由にして,職歴詐称と同じようなものだから職歴詐称の懲戒事由にあたる,という運用は許されないと考えられます。

(2)過去にさかのぼった懲戒の禁止

従業員が問題行動をした時点では懲戒処分の規定がなく,後から懲戒処分の規定をつくった場合に,その規定を設けるよりも前の問題行動にまで懲戒規定を適用して懲戒処分を下すことは許されません(遡及処罰の禁止)。

このことから,懲戒処分のときに企業側が認識していなかった問題行動は,基本的に事後的に懲戒事由として追加することもできないとされています。

例外的に,懲戒理由とされた問題行動と密接に関連した同種の問題行動などは,あとから懲戒事由として追加できると考えられます。

(3)同じ理由での懲戒の禁止

同じ懲戒事由について,繰り返し懲戒処分を下すことも許されないとされています(二重処罰の禁止)。

これに対し,1つの問題行動に対して懲戒処分を下す一方で,適格性がないことがわかったとして,人事上の措置(降格・異動など)を行うことは,懲戒処分ではないため許されます。

ただし,当然ながら,報復目的など,人事措置目的でない場合は許されません。

また,1つの問題行動に対して複数の懲戒処分を下すことをあらかじめ定めている場合は,二重処罰にはならないと考えられています。

たとえば,重大な業務命令違反に対し出勤停止の上けん責処分が定められている場合,この両方の処分を同時にすることもできると考えられます。

(4)懲戒手続の適正

懲戒処分を下すにあたっては,適正な手続きを踏まなければならないと考えられています(適正手続の原則)。

懲戒処分を下す場合,調査や判断でいくつか手続きを経ることになると思いますが,就業規則などに手続が定められている場合,定められた手続きが減られていない場合には無効となる可能性が高くなります。

手続きが定められていない場合でも,行われるべき手続きがされていないと認められると,やはり無効と判断されかねません。

中でも重要なのが,問題行動をした従業員に対し懲戒事由を告知して弁明の機会を設けること(弁明の機会の付与)です。

就業規則などで手続きが定められていない場合であっても,これがなされていない場合,事実関係が明白で疑う余地がまったくないような事情でもない限りは,裁判上は無効だとされる傾向にあります。

このように,懲戒処分は企業内の平穏を保つのに重要なことなのですが,法的には厳しいハードルがあり,場合によってはあとから無効だとされかねません。

懲戒処分の制度をつくり,実際に処分を下す際には,かなり慎重に対応する必要がありますので,この点は次回解説していきます。

より企業が発展していくためには,起きてしまった紛争を解決するだけではなく,紛争を予防し,会社のリスクを最小限に抑えることが必要です。

弊所では,企業法務分野にくわしい弁護士がサポートをしておりますので,気軽にご相談くださればと思います。

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