懲戒処分の社内公表はどこまで可能か

1 懲戒処分の社内公表について

従業員に対する懲戒処分について相談を受ける際,懲戒処分の内容・程度だけでなく,懲戒処分をした事実について,社内に公表してよいか,どこまでの内容を公表してよいか,懲戒処分の対象者の氏名まで公表してもよいか相談を受けることがあります。

2 社内公表の意義

まず,懲戒処分を社内に公表する意義はどこにあるのでしょうか。

懲戒処分は,非違行為等があった場合にこれを戒め,再発を防止するとともに社内秩序を回復するためのものです。

懲戒処分に当たる事由があったこと,それについて会社が懲戒処分にしたことを社内に広く公表することは,他の社員に対して同じような行為を行わないよう戒め,再発防止に資するもので,懲戒処分の趣旨に沿うものといえます。

また,そのような事例に対して,会社が戒告・譴責,減給,出勤停止,降格,論旨解雇・懲戒解雇等のどのような懲戒処分をしたか知らせることは,他の従業員に対して同様の事例に関する予見可能性を与える役割もあります。

例えば,従業員の間では軽微な非違行為・規律違反と考えられているものに対して,会社が厳しい態度で接することが周知され,従業員の就業規則等の遵守意識を向上させることが期待できます。

このほか,例えば,セクシャルハラスメントやパワーハラスメントを行う従業員に対して会社が懲戒処分という形で適切に対応したということが他の従業員に分かることで,会社に対する信頼や他の従業員のモチベーションが上がり,社内秩序の向上が図られます。

3 社内公表の内容

これらの懲戒処分の社内公表の意義からすると,社内公表の内容としては,

①懲戒処分に該当する行為の概要(無断欠勤,セクシャルハラスメント,パワーハラスメント,横領行為,会社設備・物品の私的利用等)

②懲戒処分事由(就業規則の該当条項)

③具体的な懲戒処分内容(戒告・譴責,減給,出勤停止,降格,論旨解雇・懲戒解雇等)で足ります。

①については,詳細な事実関係まで公表する必要はなく,抽象的な事実関係をのみ公表すれば十分であることが多いでしょう。

4 氏名の公表について
それでは,懲戒処分の対象者の氏名を公表してよいのでしょうか。

懲戒処分を受けたという事実は対象となる従業員の名誉・信頼を低下させる可能性がありますので,氏名を公表すると,会社がその従業員から不法行為による損害賠償請求を受ける可能性があります。

これについて,東京地裁平成19年4月27日判決は,就業規則上,懲戒処分を公示する旨の定めがあった事例において,次のように述べて,懲戒処分の公示方法が不相当ではないとして,懲戒処分の際に氏名を公表された従業員の会社に対する損害賠償請求を否定しています。

「懲戒処分は,不都合な行為があった場合にこれを戒め,再発なきを期すものであることを考えると,そのような処分が行われたことを広く社内に知らしめ,注意を喚起することは,著しく不相当な方法によるのでない限り何ら不当なものとはいえないと解される。

そして,証拠によれば,本件掲示は,被告の社内に設置された掲示板に,原告に交付された「懲戒」と題する通知書と同一の文書を張り出す形で行われ,掲示の期間は発令の当日のみであったことが認められ,懲戒処分の公示方法として何ら不相当なものとは認められない。」

もっとも,既に述べた懲戒処分の社内公表の意義からは,通常,氏名を公表する必要性は低いと思われます。

そのため,再発防止・企業秩序維持の観点から氏名を公表する必要性が強い例外的な場合を除いて,氏名を公表することは控えた方がよいでしょう。

5 最後に

会社としてどのような懲戒処分をするか悩ましいのはもちろん,懲戒処分をした事実を社内に公表するのか,どのような内容で公表するのか,氏名の公表をしてよいのかなど悩ましいことが多いと思います。

非違行為等に対する再発防止や社内秩序の回復のためにどのような公表の仕方が効果的なのか,顧問弁護士又は労務問題を得意とする弁護士に相談するのがよいでしょう。

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