1 退職勧奨とは?
企業が,勤務態度が良くない従業員や,成績が振るわない従業員について,退職してもらいたいと考え,その従業員に対して自主的に退職するよう働きかけることがあります。
これが一般的に「退職勧奨」と呼ばれるものです。
2 退職勧奨の際の注意点
退職勧奨は,節度のある相当な方法で行われる限り,原則として自由に行うことができます。
もっとも,企業側の従業員に対する働きかけが,過度に威圧的であったり,執拗であると評価されるなどの場合には,退職勧奨が不法行為に該当し,企業が,退職勧奨を受けた従業員に対して,慰謝料等の支払い義務を負うことがあります。
どのような場合に退職勧奨が不法行為となるのかについて,法律に明文の規定があるわけではありませんが,裁判例などでは,一般的に,社会通念上相当と認められる限度を超えて,当該労働者に対して不当な心理的圧力を加えたり,又は,その名誉感情を不当に害するような言動を取った場合に,退職勧奨行為が不法行為に該当する,などとされています(東京地方裁判所平成23年12月28日判決など)。
会社側としては,裁判例なども踏まえて,退職勧奨をする際には,従業員に過度な心理的圧力をかけたり,従業員の名誉を傷つけるような言動を取らないように,注意しなければなりません。
3 退職勧奨が違法となったらどうなる?
退職勧奨が不法行為に当たる場合,会社側は,違法な退職勧奨を受けた従業員に対して,慰謝料等を支払わなければならないことがあり得ます。
もっとも,不法行為に該当する退職勧奨があり,その退職勧奨に基づいて従業員が自主的に退職したとしても,必ずしもその自主退職の効力が否定されるわけではありません。
しかし,例えば,実際には懲戒解雇事由に該当しないにもかかわらず,懲戒解雇事由があるからこのままだと解雇される,解雇される前に自主退職した方が良いと告げて退職させたなどの場合には,退職自体の効力が否定されることがあります。
このような場合,従業員が退職の意思表示をした後も,法的には従業員であったということとなり,慰謝料等を支払うほか,退職後の賃金相当額を支払わなければならないこともあります。
懲戒解雇事由に該当しないことを知りながら「懲戒解雇事由がある」などと告げて退職を促した場合はもちろんですが,会社側としては懲戒解雇事由に該当すると考えていたけれども客観的には懲戒解雇事由に該当しないという状況で,「懲戒解雇事由がある」などと告げて退職を促し,従業員が退職の意思表示をした場合であっても,退職の効力が否定される可能性がありますので,注意が必要です。
4 適切な退職勧奨の言い方,進め方
まずは,対象の従業員に退職してもらいたいと考える理由を整理する必要があります。
従業員としても,理由もなく退職してほしいと言われても応じられないのが通常ですから,退職してほしいと考える理由を整理して,しっかりと説明できるようにしておかなければなりません。
理由を整理したら,対象の従業員と個別に面談をします。
面談では,退職してもらいたいことを伝えて,そのように考える理由や,退職に際する条件(退職時期や退職金など)を伝えます。数週間程度の期間を空けて次回面談日を設定し,次回面談までに検討してほしいと伝えると良いです。
面談の際,従業員の名誉を傷つけるような言葉(例えば,「能力がない」,「役に立たない」といった言葉や,これらに類する言葉)を使ってはならないことは,言うまでもありません。節度のある言動を心がけることが大切です。
長時間に渡る面談をすることは,従業員を威圧するものだと判断され,違法な退職勧奨とみなされてしまうおそれがありますので,面談時間は,30分~1時間程度までとするのが良いでしょう。
節度のある言動に心がけて,短時間の面談で退職勧奨を行ったとしても,従業員から,後日,違法な退職勧奨を受けたと主張される可能性があります。
そのような場合に備えて,面談の際には録音をしておくことをお勧めします。
5 退職勧奨が進まない場合の対応方法
退職勧奨が進まない場合,対象の従業員が退職したくないと考える理由を突き止める必要があります。
従業員が,経済的な理由(退職後の生活に不安があるなど)で退職に応じられないと考えているのであれば,退職金を上乗せするなど,退職に際する金銭補償を手厚くすることも選択肢となります。
従業員が,退職を促される理由に納得できないため退職に応じられないと考えているのであれば,できる限り丁寧に,退職してもらいたいと考える理由を説明することが考えられます。
もっとも,退職に納得させようと頻回に(1週間に2~3回以上程度)面談をしたり,何時間も続けて面談を行ったりすると,違法な退職勧奨とされる可能性が高いですので,そのようなことにならないよう注意する必要があります。
6 退職勧奨でお悩みの企業様は弁護士にご相談下さい。
違法な退職勧奨が行われてしまうと,退職勧奨を受けた従業員から慰謝料を請求する裁判などが提起される可能性があり,そのような事態になれば,会社が金銭的な負担を強いられるのみならず,会社の社会的信用が損なわれるおそれもあります。
退職勧奨を適切に行うことは,会社のコンプライアンス上も非常に重要なことであると考えられます。
退職勧奨でお悩みの企業様は,ぜひ弁護士にご相談下さい。