新型コロナウイルスの流行で,雇用を守り切れない企業も出てきているようです。
そんなときにアルバイトや契約社員の雇止めをすることもあると思いますので,今回は,雇止めについて解説したいと思います。
1 雇止めは自由?
雇止めとは,法律で使われている言葉ではありませんが,期間の定めのある雇用契約の労働者(契約社員,期間工,嘱託社員,パート・アルバイトなど)について,期間満了を理由として,更新をせずに雇用契約を終了させることを指します。
有期雇用契約を締結することは自由で,とくに制限もされていません。
その終了にあたっても,本来,契約期間が満了すれば契約は終了し,終了について特別理由はいりません。
契約更新することは新たに契約を締結することであり,更新するかどうかは当事者の自由ですから,有期契約社員の雇止めは自由にできるのが原則となるはずです。
しかし,こうした有期契約社員は,雇用が不安定であり保護の必要があるとの問題意識が大きくなっていきました。
このような社会状況もあって,判例により「雇止め法理」という労働者を一定程度保護するルールが形成され,最終的に労働契約法19条として明文化されました。
この「雇止め法理」により,雇止めに一定の歯止めがかけられるようになっているのです。
2 労働契約法19条
労働契約法19条の文言は少々長くて難しいのですが,以下の三要件が必要だというルールとなっています。
1.過去に反復して更新されてきた有期雇用において,雇止め(契約更新しないこと)により契約を終了させることが,無期雇用(正社員)の解雇と同視できる場合(実質無期契約型)
もしくは
契約期間満了時に,契約が更新されるものと,労働者が期待することに合理的な理由があると認められる場合(期待保護型)
2.契約満了日までの間に労働者が契約更新の申込みをしたこと
もしくは
契約期間満了後遅滞なく契約締結の申込みをしたこと
3.雇止め(契約更新しないこと)に客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないこと
これらの要件が認められた場合には,雇止めが許されず,それまでと同じ条件で雇用し続けなければならないことになります。
3 適用がある場合
上記のように,1番目の要件として「実質無期契約型」と「期待保護型」の2つの場合に労働契約法19条の適用があるとされています。これらにあたるかどうかは,以下のような事情から総合的に判断されます。
①業務内容の性質
(恒常的にされる業務か臨時の業務か,正社員と同じか異なるかなど)
②地位・役職
(労働条件上基幹的立場かどうか,正社員と条件が同じかどうかなど)
③当事者の主観
(使用者側が継続雇用を期待していたか,雇用契約締結の経緯など)
④契約更新の実情
(過去の更新回数,勤続年数,更新手続の方式,更新の判断の方法など)
⑤他の社員の更新の状況
(過去に雇止めをどの程度していたかなど)
上記の事情のうち,更新回数・勤続年数や更新手続といった④の事情が比較的重要ですが,それだけで決まるわけでもありません。
勤続年数がわずかで1回の更新もされていなくとも,その他の事情から雇止めを無効とされた事例も散見されます。
なお,勤続年数について,5年を超えていなければ雇止めができる,と勘違いされている人もありますが,これはいわゆる無期転換ルール(労働契約法18条)と混同されていると考えられます。
5年以内であっても雇止めが許されないケースもありますので,注意が必要です。
以下では,どのような場合が該当するのか,実際のケースをいくつかみていきましょう。
1 実質無期契約型
実質無期契約型とは,雇止めの時点で,形式的には有期雇用契約ではあるものの,実質的には無期雇用(正社員)と同じとみなせる場合です。
たとえば,最高裁昭和49年7月22日判決は,雇用期間2ヶ月の臨時工を繰り返し更新して雇用していた事案です。
労働条件は正社員と異なっていたものの,業務内容は同一であったこと,総社員数の30%もの多数を占めていたこと,希望退職者以外は雇止めがなされたことがなかったこと,期間満了の際に特段の手続がされずそのまま更新されていたことなどの事情から,無期雇用と実質的に同視できると判断しました。
また名古屋高裁平成29年5月18日判決は,20年以上の間アルバイト社員を雇用していた事案です。
長年にわたり契約更新を繰り返していたこと,業務内容は契約期間中で終了するような期限が決められた業務ではなかったこと,勤務時間帯が夜間であるというだけで正社員とそれほど変わらない業務内容であったこと,他に意に反して雇止めをされた従業員はいなかったこと,更新手続は形骸化しており雇用期間満了後に更新手続が行われることもあったことなどの事情から,無期雇用と実質的に同視できると判断しました。
2 期待保護型
期待保護型は,雇止めの時点で,労働者が雇用継続を期待していたことに合理的な理由がある場合です。
たとえば大阪高裁平成3年1月16日判決は,有期雇用のタクシー運転手について,1回目の契約満了で雇止めをした事案です。
契約書上は1年の期間と定められていたものの,自己都合による退職者を除いては例外なく契約が更新ないし再契約されていたこと,契約更新の際は改めて契約書が取り交わされていたものの,契約書の日付が数ヶ月後にずれ込んだこともあったこと,運転手らは自動的に契約が更新されていると聞いていたことなどの事情から,雇用継続の期待には合理的理由があると判断しました。
また東京地裁平成28年2月19日判決は,定年後の再雇用の有期契約社員について雇止めをした事案です。
労働者が定年まで勤め上げた上で再雇用に至っていたこと,更新は原則として65歳になるまでが予定されていたこと,会社は契約更新の基準を設けておりこれを満たす必要があり,労働者に問題行動があったため形式的には更新基準を満たさないものの,雇止めの事由とする程度の悪質なものではなかったことなどの事情から,雇用継続の期待には合理的理由があると判断しました。
3 労働者側からの契約の申込
2番目の要件として,労働者側から契約の申込があったことが必要とされています。
かなりゆるやかに解釈されており,書面などでする必要もなく,会社から雇止めを通告された際に「嫌です」「困ります」などなんらかの反対の意思を表示すればよいと考えられています。
理論上は,従業員側が証明しなければならないことではありますが,実務上この事情が問題になることはあまりないと思われます。
4 合理的理由・社会的相当性
3番目の要件は,無期雇用(正社員)の解雇について定めた労働契約法16条と同様の文言となっています。
そのため,雇止めに合理的理由があるか・社会的に相当であるかについては,正社員の解雇の場合と同様,従業員の能力の喪失・低下や能力不足・適格性の欠如,非違行為の有無,会社の業績悪化等の経営上の理由などを考慮していくことになります。
しかしまったく同じというわけではなく,雇止めが実質無期契約型であれば,正社員の解雇と同程度に厳格に判断されると解されていますが,期待保護型であれば,正社員の解雇と比較するとゆるやかに雇止めが許されると考えられています。
ただし,これはあくまで正社員の解雇と比較してのことであり,多くの裁判例をみても,雇止めの合理的理由・社会的相当性のハードル自体は相当に高く,会社側が大きな責任を負っているといわざるをえないでしょう。
雇用継続自体は,会社も従業員も望んでいるものの,更新後の労働条件については折り合わない,ということもあります。このような条件変更が合意できずに雇止めに至る場合でも,労働契約法19条の適用はありえます。
この場合,合理的理由・社会的相当性の判断においては,労働条件変更の必要性,条件変更の内容,不利益の程度,変更に際しての協議の内容や程度などの事情を加味して判断することになります。
5 厚労省の告示
雇止めについては多くの考慮すべき事情があり,トラブルになった場合は大きな問題となりかねません。厚労省はトラブル予防のため告示を出し,以下のような4項目を推奨しています。
1.契約締結時の明示事項等 (更新の有無,判断基準など)
2.雇止めの予告
(一定の更新回数・期間を超えて継続雇用された場合。30日前まで)
3.雇止めの理由の明示
(労働者から請求された場合に証明書を交付)
4.契約期間についての配慮
(契約実態や社員の希望に応じ長くするよう努める)
(厚労省HPより。https://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/12/dl/h1209-1f.pdf)
これらはあくまでトラブルの予防のためであり,遵守したからといって雇止めが有効になるというわけではありませんし,遵守しなかったからといって雇止めが無効とは限りません。
個別のケースごとに慎重に検討する必要があります。
以上のように,雇止めには強い規制がかかっており,制度自体が複雑で不明確なところが大きいものです。
また,個別具体的な判断を求められる上,判断を誤るとかなりのリスクがありますので,弁護士に相談されて,アドバイスを受けながら対応することが,トラブルの予防につながると思います。